精密故に中古買取でも高額品 レコードプレーヤーについて
かつての親戚や故人の物で、使い方を知らずにあなたの家の片隅に眠っているレコードプレーヤーやターンテーブル、オーディオの世界では実は高額買取になる代物かもしれません。
僅か0.05mm~0.1mm、それがレコードプレーヤーで読み取られる、また我々エコストアレコードが取り扱うアナログレコードに音楽が刻み込まれている溝の幅です。
傷や汚れなどで簡単に綺麗な音源は失われてしまい、保存状態によって希少性が高まるレコード盤ですが、それを再生するレコードプレーヤーも非常に繊細な動作を要求されます。中心へ向かって渦を描くその記録方式を正確に不自由なくトレースしながら、尚且つ溝の凹凸に対しては針先のみ動くようにしなければならず、さらにその僅かな物理運動を明瞭に電気信号に変換しなければならないという、実はかなり複雑な条件の中作り上げられているのです。
人間の目にはとても捉えがたい僅かな動きへとアプローチをかけるレコードプレーヤーは、まさにオーディオメーカーのセンスと技術が問われる芸術品。高級なものでは新品での販売価格が日本円で8桁のものも存在します。そんなレコードプレーヤー、一体どんなもので、何故高価なのか。買取では何に気を付けるべきなのか。ご紹介します。
レコードプレーヤーの構成と仕組み
よくDJの世界ではTechnics製SL-1200などのDJ用レコードプレーヤーをターンテーブルと呼称され、各オーディオメーカーの英語の公式サイトでもレコードプレーヤーがTurntablesと表記されていることが多いですが、国内ではターンテーブル部分とトーンアームを組み合わせ、レコードが再生できるセットになった状態で『レコードプレーヤー』、もしくはピュアオーディオではレコード再生で楽しむオーディオの形態をアナログオーディオと呼ばれることから『アナログプレーヤー』とも呼ばれる方が一般的かと思われます。
ちなみに安価なものとしてそれら全てがセットになり、さらにはフォノイコライザーや小型のアンプとスピーカーまで搭載されて単体で音が出せる形のレコードプレーヤーは簡易プレーヤー、特にその中で持ち運び可能なトランク型をしている物はポータブルプレーヤーと呼ばれています。ただし、こういった安価な商品は後述する調整部分や機構が省略されているものが多く、あまり本格的なオーディオとして長く使われることは少ないものでもあります。
アナログレコードを再生するための一般的なレコードプレーヤー本体は、その仕組みとして大きく2つの部分に分けられます(今回カートリッジ部分は省略してご紹介します)。
まず一つが決められた回転数(1分間に33、45、機種によっては78回転)で盤を回転させるターンテーブル。そして回転する盤の溝から電気信号として音源を取り出すカートリッジを装着するためのトーンアーム。
この2つの機構において、オーディオメーカー各社はアナログレコードをより忠実に再生するため、実に様々な設計や機構を編み出しています。
まず、ターンテーブルについて、こちらで重要になるのは指定速度で正確にブレなく、かつ静かに回り続ける事です。普段からレコードを再生されている方であれば経験があるかもしれませんが、レコードに記録された音楽を正確に再現するためには回転速度は非常に重要な要素となります。特にDJをやっている方であれば回り始めや回転を止めた時の速度が低い状態では音程が低く、またテンポを合わせるために速度調節を使って速度を上げた際に音程が高くなる現象は馴染みがあるかと思います。
つまり、逆に普通に本来の音源通りに再生しようとした際には、こういった速度の上下というのはあってはならない要素となります。どうやって回転させるのか、そして速度を安定させるのかによってこの部分だけでも様々な手法がとられています。
回転させる方式としては、主に3種類の方法が存在します。
一つがモーターに付けた滑車からベルトを介してプラッター(盤を載せる円形部分)を回転させるベルトドライブ方式。二つ目がプラッターの中心軸にモーターを搭載しモーターの力で直接回転させるダイレクトドライブ方式。三つ目がアイドラーと呼ばれる車輪を介して回転させるアイドラードライブ方式ですが、この方式は一部のヴィンテージ機に見られるものの、現行機種では殆ど見かけない方式です。
現代ではベルトドライブとダイレクトドライブが主流ですが、それぞれメリットとデメリットがあり、人によって趣味嗜好の分かれる部分となっています。
まず、ベルトドライブが有利で、ダイレクトドライブが不利とされている点に、モーターによる振動があります。モーターはコイルに流れる電流から発生する磁界と、設置された磁石が持つ磁界の作用によって回転を生み出す装置ですが、その回転部の精度や設計にもよりますが微小な振動を発してしまいます。
ダイレクトドライブの場合は盤を回転させるプラッターに直結している構造により、そのモーター部分の振動が盤にまで伝わり実際溝を針先から読み取る際にある程度影響を与えるものとされています。そのため高級なレコードプレーヤーになるとあまりダイレクトドライブは見られず、ベルトを介して振動が伝わりにくい構造、さらにはモーター自体をプラッターを載せている筐体から別にしながら振動対策をすることで、完全にモーター由来の振動をシャットアウトしようとする設計のものも少なくありません。
しかしベルトドライブの弱点として、伸縮するゴム製のベルトを介し、プーリーやプラッターの摩擦が関係するゆえに、そのままでは回転速度の揺れが起きやすいという部分があります。その点、ダイレクトドライブはモーターの精度が十分にあれば、ベルトドライブより回転は安定します。
ただしベルトドライブでもその点への対策が無い訳ではなく、回転速度の立ち上がりが犠牲となりますがプラッターの重量を非常に重くすることにより慣性によって回転を安定させたり、ベルトではなくケブラー糸等を使用して回転させる方式の物も存在します。
次にトーンアーム部分についてです。
レコードの溝から音源を電気信号として取り出すためには、カートリッジと呼ばれる小さな装置を使用します。そのカートリッジ自体も種類があり、そちらはまた別の機会にご紹介出来ればと思いますが、基本的には本体の位置を基準とした針先の位置関係の動きを電気信号に変換する装置です。つまりは、針先にある程度の自由を持たせながら、カートリッジ本体の位置を可能な限り盤に対して安定させる事が理想と言えます。
しかしながら、レコード盤というのはLPであれば外側から中心まで8cm前後の幅があり、溝の流れに沿ってカートリッジ自体の位置も動いていかなければなりませんし、尚且つその動きを妨げてもいけません。
こういった実は相反しているような条件を支える部分を担っているのがトーンアームであり、何を是とし何を非とするのか、どういった機構で正確なトレースを実現するのかを各社試行錯誤し、これも人によって趣味嗜好の分かれる部分でもあります。
また、レコードを再生する機構上カートリッジの針先や本体には様々な方向の力がかかり、それに対する反作用の影響や、適正な力加減もカートリッジによって異なります。数字で表すとしたら1gにも満たない力の差異やバランスの世界になりますが、0.1mm未満のごく僅かな溝から読み取る機構であるが故に、電気信号として取り出され、アンプで増幅しスピーカーから発せられる音の空気感や明瞭さ、低域から高域までのバランス等に密接に関わってくる部分になります。そういった細かな力の調整やトーンアーム自身の振動の影響までも考慮するため、カートリッジまでの棒の部分といった一見単純そうに見えますが、高級品は非常に精密な機構で拘り抜かれて作られる部分でもあります。
ターンテーブルとトーンアーム、このようにどちらも考慮する点やその手法が様々存在し、それらの組み合わせによってレコードプレーヤーという一つの形になります。そのため、高額品ではターンテーブルとトーンアームが別々に販売されている事も多いです。一つのターンテーブルに対し2~3本のトーンアームを経たせることが出来るようなものも存在し、自分なりの拘り、使い分けが出来る世界でもあるのです。
実際に中古買取で高価なレコードプレーヤーとは?
ここからは実際弊社に入荷した高額レコードプレーヤーを例に見ていこうと思います。
こちらは先日弊社に入荷した、MICHELL ENGINEERINGのターンテーブルGyroDec-ALと、SMEのトーンアーム3010Rの組み合わせ。
本体のデザインに加えて、クリアーの極厚アクリルによるベースとダストカバーが目を引くデザインです。
まずターンテーブル本体から見ていきます。特徴的な形をした銀色のフレーム部分ですが、実はこの部分はベースのアクリル板から浮き上がっています。
この銀色のシャーシ部分はアクリル板を貫通している3点の足の部分からバネで吊り下げるような形で載せられており、水平を保つと共に接地面からの振動を軽減する構造になっています。
ここで、オーディオに慣れていない方は何故脚が4つでは無く3つなのか?と思われる方もいるかもしれませんが、数学的な観点から見ると、平面というのは点を最小で3点通る状態で定義できます。つまり逆を言えば、4点目以降は正確に他3点が定義した平面上に正確に置かなければその平面からずれてしまうということになり、これを接地面に当てはめると、4点以上で設置する場合は全ての点を正確に同一平面上になるよう調整する必要があります。また、地面からの振動や、本体の信号が地面に伝わる事を嫌うオーディオの世界では、接触面積自体も極力少なくしたいため、写真のように円錐の形状で最低限である3点で設置される事も多いです。
そうしてシャーシが設置された上に、アクリルをベースにカーボン、そしてレコードと同じ塩化ビニールを配合された特殊素材に6点の真鍮ウエイトがついたプラッターがベアリングを介して載せられています。ひとつ前の項で述べたように安定して回転させるため、プラッターの重量自体を重くし、さらには低く外側に重量バランスが来るような設計になっています。さらにシャフト自体も工夫されており、試しに一度手で回し始めると何分も止まらないくらい非常に滑らかに回転します。
そうして安定して回転するよう拘り抜かれたプラッター部分は、ベース、シャーシに空いた穴から通すような形で設置されるモーターからベルトを介して33回転、45回転で回されます。
先程言ったモーターの振動の問題をこうして本体から完全に独立することで解決しているのですが、このモーター自体もいざ回転させてみると非常に静かに回転し、高品質なものであることが伺えます。
次にトーンアーム部分を見ていきます。このGyroDecでは様々なメーカーのトーンアームに対応していますが、その中でも前オーナーはSMEを選び、その中の3010Rというモデルで使用していたようです。
SMEはイギリスのメーカーで、高品質な高級トーンアームを多数生み出しています。
良し悪しというよりは単に構造の違いでもあるのですが、SL-1200に搭載されているトーンアーム等と比べると非常に複雑な構造をしており、ダイヤルではなくウエイトの物理的な位置関係によって各部分の調整を行うような構造となっています。パイプ部分は高剛性ステンレス鋼で作られており、ねじれやたわみ、そして共振に対しても強い素材で構成されています。
そしてこのトーンアームのケーブル部分はRCAコネクターの形状で脱着可能となっており、ここも好みの音質へ向けてカスタマイズできるようになっています。今回はOYAIDE製PA-2075 RRが装着されていました。
こういった追加のアクセサリー類も音質を拘る面では重要になってきます。
このように、レコード1枚回転させ、音を再生するだけでも、拘るためにはこれ程沢山の要素が詰められています。そうして素材や設計に拘り抜かれた結果が、高級レコードプレーヤーが高価である所以とも言えます。
レコードプレーヤーの中古買取で注意したいこと
ここまでご紹介したような各オーディオメーカーのレコードプレーヤーへの拘りや、精密な製品作りを実現するためにその取扱も非常に慎重になる必要があるものになってしまうことは珍しくありません。無論、その分必要な付属品も多い傾向にあります。
先程ご紹介したSME 3010Rでも一部のウエイトに非常に細いテグス糸で吊るす方式がとられており、糸が切れやすいのは勿論、ウエイト部分も小さいため無くなってしまった状態で入荷するSMEのトーンアームも珍しくありません。また横向きにするとオイルがこぼれてしまうようなオプションを搭載したものもあります。
以前の記事でご紹介した通り、輸送中に動いてしまったり、外れてしまう部分があると破損の原因にもなりますが、レコードプレーヤーは特にこういった動く部分、外れる部分が多い機器になります。運搬の際はこういった部分を固定するか、各パーツを失くさないようにしながら別梱包にする必要がありますが、もし取扱いや解体に自信の無い場合は、買取業者に相談し、梱包指示を貰ったり、出張買取をお願いした方が良いでしょう。
また、先程のMICHELL ENGINEERINGのGyroDecが14㎏程、広く知れ渡っているTechnicsのSL-1200シリーズで12~13kg程ですが、高額なレコードプレーヤーになると、ターンテーブル部分だけでも合計重量が50kg以上となるものもあります。そういった場合、移動させる事自体から困難になると思いますので、いち早く専門の買取業者へ連絡し、引き取り方法を相談するのがベストでしょう。
そして買取のお問い合わせをする際に、お値段が気になる方もいらっしゃると思いますが、ここまでご紹介した通り、レコードプレーヤーにはターンテーブルとトーンアームが元から一緒になって販売されている商品もあれば、別々で売っていたものを組み合わせて構成されている物もあります。そのため所持していたご本人様であればそれらの詳細を事細かに伝えて頂ければおおよその価格をお見積りすることはある程度出来ますが、ご遺族の品や詳細を知らずに譲り受けたお品物の場合電話やメールの問い合わせだけでは詳細を特定するのが困難な場合もあります。
またオーディオ製品では外見状態や外見からは判断できない動作状態も重要となるため、おおよそのお見積りを提示したとしても、実際の商品の状態によって買取価格が上下動する場合は大いにあります。そのため、やはり不要になった段階、動作していて綺麗なうちに早めに業者に問い合わせ、その査定方法や引き取り方法をご相談される事をお勧めします。
いかがでしたでしょうか。
アナログレコードはプレーヤーの質や調整によって様々にその音の表情を変える、歴史のある音楽媒体でありながら最新技術でさらなる追及がなされている方式です。拘り抜かれたそのシステムを、エコストアが大切に次の世代へと手渡すお手伝いが出来れば幸いです。
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